蓬莱陣屋のひまつぶし?
名古屋市熱田区神戸町503 052-671-8686
ひまつぶし? 2300円
本で
「ひまつぶし」という独特のウナギの食べ方をする店があることを調べていた。昼食にしては料金が高い目で、普段なら決して食べないが、熱田神宮にお参りをした後の直会(なおらい)なのだから、けちってはいけない。おいしいものを食べよう。
熱田さんの何とも言えないいい場のエネルギーをいただいて、私たちは上機嫌だった。ひまつぶしというのだから、食べるのにだいぶん時間がかかるのか、これを考えた人がよほどの暇人だったのか、こんなものを食べるのはよほどの暇人という意味なのか、いろいろ考えていた。食べ物にこんな名前をつけるなんて、よほど人をくった人が考えたのだろう。道ばたの車のボンネットに猫が寝そべっている。この猫もひまをつぶしているのだ、道ばたに草が生えている、これもひまをつぶしているのだ、などと流れ星さんと話しながら、店を探して歩く。
店は一見普通の家。中は料亭のような雰囲気がある。けっこう広いが非常に混んでいる。私たちはラッキーなことに、椅子席が二つある小部屋に案内された。
注文を聞かれて「ひまつぶし二つ」と言うと、店員さんがきつい口調で「ひつまぶし二つですね」と言う。
え?????? 店員さんが去るとあわててメニューを見直す。
「ひつまぶし」だった。
無性に恥ずかしくて笑い飛ばすタイミングを逃してしまい、私たちは気まずい沈黙の中で中庭の木々を眺めたり、隣にきたビジネスマン4人の会話を何となく聞いたりして、ひつまぶしが届くまでのひまをつぶした。
笑い飛ばすにはもう遅すぎるし、話題にするにしてもどういう風に話題にしたらいいのかわからないし、そもそも
私が失敗して恥ずかしいと思っていることを知られてはならない。などと考えていると焦ってお茶をこぼしてしまい、ますますなんだか気まずくなった。これでひつまぶしが高いばかりでまずかったら、シャレにもならない。
長いこと待ってやっとひつまぶしが届く。ひつまぶしが届くまでに、ひまつぶしが本当に必要だった。さあ、これで気分を変えないと午後が台無しになる。
食べ方を教えてもらった。
おひつの中にざくざくに刻んだウナギとご飯がきれいに並んで入っている。それをしゃもじで4等分する。まず最初にその一つをお茶碗によそり、そのまま食べる。二回目はお茶碗によそったうなぎごはんに、添えてある薬味の青ネギとノリとわさびを混ぜて食べる。三回目はやはり薬味をのせて、白出汁をお茶漬けのようにかけて食べる。最後には自分で一番気に入った食べ方をする。山椒は出てこない。
元々はウナギの皮が固いので刻んで出したものらしいが、ここのウナギは皮もちゃんと柔らかいが、パリッと焼いてある、このパリッとした食感はなかなかだった。おひつの中にはたくさんのウナギとタレが入っている。ウナギを青ネギとノリで食べるという発想は今までなかったが、やってみるとかなりいける味だ。
となりのテーブルのおじさんたちのうんちく話によると、ウナギの脂でわさびの辛さがなくなるのだそうだ。確かに辛くない。白出汁をかけるのがまたうまい。とっくりのような形をした出汁の器があり、足りなくなるといやだしと思ってちびちび使ったが、最後にずいぶんあまったので、そのまま飲んでしまった。つまり、あまり遠慮せずにかけても、見た目よりもたくさん入っている。私はウナギご飯に出汁をかけて食べるという発想が気に入って、4杯目はそれにした。流れ星さんは、なんと4杯目を三等分して、もう一度三種類の食べ方をしていた。これには負けた!
家庭でこれをするなら、買ってきたウナギを刻んでからオーブンで焼きながらあたためるといいと思う。そして青ネギは何という種類か忘れたけれど、一番細いネギにすること。タレも多い目にかける。白出汁は、今は便利においしい白出汁の元を売っているのでそれを使えばいい。がんばってヘタに自分で作るよりよっぽどおいしい。いつものウナギごはんが大変身。ぜひお試しください。
私たちの気まずさも、ひつまぶしのおいしさでどこかに飛んでいってしまった。量もたっぷりあり、大食漢カップルの私たちも大満足だった。
私は極薄の奈良漬けを二切れ、つい食べてしまい、なんとなくふらーっと酔っぱらいながら、幸せな昼ご飯だった。