
お湯はほのかに硫黄の匂いがするが、全く気にならない。切り立った岩の隙間から温泉が湧いていて、石が茶色く変色している。お湯の色も茶色っぽく程良くにごっている。深さもちょうどいい。ぬるぬるした石で滑らないように足を踏ん張って
そっと反対側を向くと、目の前はすぐに渓流で、鮮烈に白い水しぶきだ。温泉がわき出る密やかな水音と、渓流の豊かな水音が重なり合い混じり合い、空気を豊穣に満たす。こんな場所にはきっと、温泉天使か温泉妖精がいるにちがいない。
程良く暖まり十分に満足した私たちは、日が暮れてしまわないうちに車に戻った。そして地元のスーパーを探してナビをたよりに、帰る方向とは逆の数十キロ離れた隣町に向かう。サラダの材料を仕入れる為だ。全く、
このあたりに住んでいる人たちは、日用品をどこで手に入れるのだろう。心配になってしまう。
北海道の豆腐をあなどるなかれ(*^.^*)
ホテルに帰り、買ってきたお弁当とサラダを食べた。私は旅行に行く時には、果物ナイフと塩を必ず持っていく。その土地の新鮮な野菜を食べるためだ。この日は豆腐も買って豆腐サラダゴマドレッシングにしたのだが、これが大正解だった。スーパーで買った普通の豆腐が、こんなにおいしいとは思わなかった。醤油もドレッシングも何もナシで食べても、非常にうまい。
私は大豆で出来ています、と当たり前のことを当たり前に言っている豆腐だ。豆腐というのはこういう味だったのだ。感動だった。北海道の人たちは日々、こんなうまい豆腐を食べているのか。そういえば十勝は大豆の産地でもあったはずだ。うーむ。
星ってこんなにたくさんあるの!!!
夜中、私は公衆電話からメールチェックとHPのBBSチェックだ。人気のなくなった電話コーナーで一人、寒さに凍えスピードの遅さにいらつきながら。
流れ星さんは昔取った杵柄のカメラ一式を持参していたので、夜景の写真を撮りに行った。メールチェックが終わって外に出てみると、
異様な程に満点の星空。私はこんなにたくさんの星をナマで見たことはなかった。天の川も見えている。月も火星も。夜空に砂をまき散らしたかと思う程のたくさんのたくさんの星、星、星。夜空を埋め尽くす勢いだ。プラネタリウムとは全く違う。写真で見るのとも違う。圧倒的な迫力だ。都会に住んでいると「星降る夜」などという言葉は絵空事にしか思えないが、ここではそれが日常なのだろう。
こんな土地に住んで、毎晩夜空を眺めて暮らしたら、全く別の人間に生まれ変われるかもしれない、とふっと思った。
そのうち私は首が痛くなって、30分間の開放撮影で写真を撮っている流れ星さんを見捨てて、さっさと先に帰って寝てしまった。夜空の神秘よりも眠気が勝った。